さんまをはじめとした焼き魚の類には、付け合わせとして大根おろしが添えられることが多い。

生の大根にはアミラーゼやリパーゼなどの消化酵素が豊富に含まれており、消化を助ける働きがある。大根おろしの独特の辛味には、魚の生臭さを軽減してくれる効果がある。また、その辛味成分であるアリルイソチオシアネートには殺菌作用があり、古くは魚の毒を消す効果があるとも言われていた。

魚の脂で胃がもたれるのを防ぎ、魚の臭みを中和し、魚の毒を消す。つまり大根は、おろして焼き魚に添えるために生まれてきた野菜である。

アグレッシブもみじおろし

大根おろしのバリエーションに、もみじおろしというものがある。

大根に箸などで穴をあけ、そこに丸のままの唐辛子を詰めて一緒におろしたものをそう呼ぶ。唐辛子の辛味と鮮やかな紅色が加わって、大根おろしの魅力が幾重にも増す。それはいいのだが、大根に箸ぶっ刺してそこに唐辛子をぶち込んでおろす、というのはなかなかにアグレッシブな調理方法である。この非道なやり方に心を痛めた人が少なくなかったのか、大根と唐辛子を別々におろして後から混ぜ合わせるという人道的な作り方も存在している。

パラドックスもみじおろし

先ほど挙げた、大根と唐辛子を非人道的なやり口もしくは人道的なやり方でおろしたものの他に、大根おろしと人参おろしを合わせたものも「もみじおろし」と呼ぶ。しかしそのタイプのもみじおろしには大きな問題が一つある。人参に含まれる酵素が大根に含まれるビタミンを破壊してしまう、という説があるのだ。ではなぜ人は大根と人参を混ぜたのか。答えは簡単だ。見た目がいいからだ。栄養素を捨てて見た目をとったのだ。ビタミンCは見殺しにされたのだ。どうも人間という生き物は、大根おろしが絡むと心というものを失うらしい。

もみじおろしの真相

ただ、この「ビタミンC殺戮説」は学術的に誤りであることが証明されている。

ビタミンCには還元型と酸化型の二つがある。もみじおろしを作ると、人参に含まれるビタミンC酸化酵素が大根に含まれる還元型ビタミンCを酸化型ビタミンCへと変える。酸化型ビタミンCは還元型ビタミンCに比べて効力が低いと言われていたため、「人参に含まれる酵素が大根に含まれるビタミンCを破壊する」という説が定着してしまった。しかし実際は、酸化型ビタミンCも還元型ビタミンCもほぼ同等の効力をもつ。つまり人参によって大根の栄養素が損なわれることはない。

ビタミンCは、少し姿を変えただけで確かにそこに生きていたのだ。

殺戮はなかったのだ。

これで安心してもみじおろしが食べられる。

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